【夜のピクニック】恩田陸先生 ネタバレ有 ~物語とは思えない穏やかな現実~
週1くらいのペースで読んでいきたいんですがね……笑
『青春小説』とあったので、すごくドラマチックなのかなぁなんて思っていたのですが、
めちゃくちゃハラハラドキドキする展開があるわけではなく、
淡々といろいろなことが分かっていろいろなことが解決していくお話でした。
でも、間違いなく青春と言える。
そんな物語。
大きな起伏がない分、とても読みやすいです。
というか、読む手が止まらないというか笑
歩行祭という、ずっと歩き続けるイベントが主体だからか、
淡々と進んでいくんですよねぇ。
だからなのか、するするする~と読めて、
次はどんなことが起こるのかな~なんて安心して読めるので読みやすい。
しかも会話も自然。
砕けた話し方や鋭い突っ込みには現実味があります。
そう、この小説、現実味があるんですよね。
腹違いの兄弟とか、高校生で妊娠中絶とか、私の現実にはなかった話も混ぜ込まれているのですが、
劇的なことが起こるわけじゃないので妙に現実味がある。
ドラマでよくある殴り合いの喧嘩とか、怒鳴り合いとか、そういうのって結構現実味ないと思うんですよね。
ドラマならではの演出というか。
そりゃ喧嘩したら怒鳴り合ったり殴り合ったりすごいことになると思いますが、
この小説では喧嘩が起こらない。
世の中の人間が怒鳴り合ったり殴り合ったりすることなんて滅多にないんじゃないかって、私は思います。
家族でない他人同士なんて、お互い良いところ見せようとしたりちょっと気を遣っていたりしているのだから、滅多にないはずです。
この物語の主人公、融も怒っていますが、怒鳴るわけでも殴るわけでもない。
ただ静かにずっと怒っている。
もう一人の主人公も、静かに怒っていたりある賭けをしていたり。
心の中、表に出ないところ、水面下でいろいろ考えていて変化していく。
その水面下の変化が、自分の思考の中のようで、なんだか現実味があるなぁと思いました。
登場人物も、印象的だけどありがちな人たちです。
何でもできちゃう完璧お嬢様、性格の悪い打算的な女の子、ちょっと口の悪い女の子、まったりマイペースな女の子、自分のことでさえどこか達観していて許容範囲の広い女の子、日本が好きな帰国子女に、みんなの良いやつな男の子、ロックが大好きな男の子、クールに見える男の子……。
あぁそういえばクラスに一人はいたなぁ、というか学年に一人はいた、というような子たちばかりです。
ほとんどが歩いているところの描写と、会話だけで成り立っているこの物語。
劇的にしようと思ったら、会話に変化をつけるのが一番楽……。
変な性格の子を出すとか、変な口調の子を出すとか。
と思うのですが、変わっているのはロックの子だけで、他はそれほどでもない。
そんなところも良いなぁと思わされます。
この物語の中で、主人公の融は青春をしていない子になっています。
先のことばかりを考えていて、今を楽しめていない。
もちろん先のことを考えるのは大切なことなんですが、
友達の忍が「雑音だって、おまえを作ってるんだよ」と言います。
その時、その瞬間だけの出来事にもっと目を向けろと。
それが青春だって言うのです。
あぁその通りだなと思いました。
後輩に、相談されたことがあります。
「自分には夢があって、そのために全力で頑張りたい。でも周りの子たちは何にも考えてなくて、おちゃらけてる子たちばっかりで、つい流されてしまう。これでいいのか」
みたいな相談でした。
私はその時、
「やりたいことがあって、それに向かって頑張れることはすごいことだから続けていこう。でも、そういう、誰かとバカやって楽しむってのは今しか出来ないから、安心してやっておきな。きっと財産になる。思い返した時に、楽しかったなぁ、バカやったなぁっていう思い出があるかないかで、将来、大人になったとき、子どもの気持ちが分かるかどうかが決まってくるんじゃないかな。子どもの楽しさを知っていないと、子どもに子どもの楽しさを教えられないよ」
みたいなことを言った記憶があります。
その後輩が学校の先生になりたいって頑張っていた子なので笑
その子は後に、相談して良かったって言ってくれた良い子でした。
私もまだまだ青二才も良いところだったのに笑
そういうことに悩んでいた子を知っていたから、よけいに現実味があるのかもしれません。
それから他の子たちが自分や他人を分析した結果を言うのですが、
それもなるほどなと思わされます。
彼氏というお飾りが欲しい、その時だけの青春を味わいたい子。
似合うだろうなと思ってお付き合いをしていた子たち。
恋をしているけれど、口には出さずにいこう、それでいいと決めた子。
きっと誰かに自分のことが当てはまるんだろうなぁと思いました笑
私はたぶん……もう一人の主人公、貴子ですね……。
友人に言われたことがあるんですよね。
「寛大だ」「貴方は最初から許している」って。
今思えば、読書好きなその子は、この物語の登場人物である祐一くんの言葉を借りていたんだなぁ。
そう言えば、以前彼女にこの本を薦められたときに何度か言われた気がする笑
世の中にはいろんな人がいますね。
この本の中で自分を見つけて、己の自覚をする。
そのためにもこの本は良いような気がします。
そして、今、中学生や高校生の子たちに読んでもらいたい本だなぁとも思います。
まだ読んでいない方は是非。